

東北大学病院小児医療センター 高校生学習支援サークル
慶應義塾大学 秋山美紀研究会 チルドレンケアラー班 2023年の聴き手
NPO法人 Your School
NPO法人 未来ISSEY グッドブラザー 2024年の聴き手
東北大学病院小児医療センター
高校生学習支援サークル
2023年の聴き手
慶應義塾大学 秋山美紀研究会 チルドレンケアラー班
2024年の聴き手
NPO法人 Your School
NPO法人 未来ISSEY グッドブラザー
高校生学習支援サークルについて
患者のニーズにあった学習支援を
東北大学病院小児医療センター高校生学習支援サークルは、長期入院の高校生を対象に自主運営による学習補助を行っています。
患者との関わりや小児領域に興味・関心のある学生が活動に参加しており、医師、看護師などの医療者と情報共有を行ったうえで、患者個人のニーズや意志を尊重しながらの学習支援を心掛けています。
「高校生学習支援サークル」をあらわすキーワード
団体の概要
Q.団体名は?

正式名称:東北大学病院小児医療センター高校生学習支援サークルです。
Q.設立年は?



2017年です。
Q.活動地域は?



東北大学病院小児科病棟です。
学生メンバーについて
Q.どんな学生メンバーがいるの?



5年生2名、4年生2名、計4名が在籍しています。2025年には現3年4名も参加予定です。(2024年9月現在)
活動の紹介
主な活動




Q.具体的な活動内容は?
活動概要



高校生本人の希望教科を週1~2回、1時間程度学習支援をしています。
高校生たちは退院まで参加可能です。本年度は4名の学習支援実績があり、今もさらに1名の高校生が参加してくれています。



活動はAYA Roomという部屋で実施しています。
AYA Roomには、予備校の動画など遠隔授業も見れるように、デスクワーク、パーテーション、Wi-Fiなども完備されているため、高校生たちの学習の場として主に使われています。



コロナ流行に伴い、一時対面からZOOMでの活動へ移行しましたが、2023年から対面活動が再開しました。ですが、メンバーが病棟に足を運べないときにも学習支援ができるように、今もオンラインでの活動に対応できる体制を整えています。
活動の流れ



昨年のフォーラムに参加し、「誰が何をやるサークルなのか」という点について、関係者間で共有認識を持ちたいと思うようになりました。そこで、団体の関係者、活動メンバー、予算の出所、活動目的、背景などを明文化しました。
これにより、今自分たちがどのような活動をしているのか、メンバーだけでなく小児科スタッフの方とも再確認することができました。



活動については、医師から入院中の高校生に紹介をしていただく形を取っています。医師が患者と団体の橋渡しをして下さっているのが特徴です。
患者が学習支援を希望する場合、患者と保護者、担当医のサインが必要であったり、教科希望書なども提出していただいたりするなど、事前に様々な過程があります。
その後、団体に活動依頼が入り、患者、担当医、担当メンバーの3人で、活動方針や日程を決めます。
また、メンバーと担当医の間で、病気、治療に伴う身体への負担の波、AYA Roomの使用可否性格、状況など、患者の背景情報も共有しています。活動時は、その時に参加してくれる高校生に合わせ、様々な学習支援をおこなっています。以下に活動の様子を紹介します。
事例紹介



高校数学の依頼を受けました。本人の理解度を確認するため、まずは中学数学を網羅するテストを自作し解いてもらうことから始めました。



大学受験に向けた物理の依頼を受けました。
担当医からの情報共有時、本人が勉強の達成度について自己分析をできていると判断しました。そのため、本人から苦手なところや目指す学部などを聞いたうえで学習支援をしました。



学校でやっているドリルを使い、つまずいた部分を一緒に取り組みました。学習支援中は、仲良くなることを常に意識していました。
また、活動終了時は病室に待機していて下さった親御さんに、その日やったことやできていたところ、苦戦していたところなどを共有しました。



英語を話せるようになりたいとの依頼でした。メンバーはその子にとって話し相手でもあると考え、会話の中で出てきた表現を英語で練習するなどの工夫をし、おしゃべりの時間も大切にしました。
対象の子ども・活動場所
Q.どんな子どもたちと、どんな場所で関わっているの?



東北大学病院小児病棟に入院している高校生です。
高校生学習支援サークルの特色
連携している団体・応援してくれる先生方
顧問の先生、医療スタッフ
Q. 入院中における学校の存在とは?
学校に戻るという目標をもつことで「治療に取り組む力」にしている子どももいます。そのような子どもは、学校にいる友だちと連絡を取り合ったり、授業の進捗を聞いたりすることもあるようです。もちろん、子どもによって「勉強をする」ということの捉え方はそれぞれですが、治療を続けていく上で学校や友だちの存在が励みになっている子どもたちもたくさんいることは事実であり、大学生メンバーがこのように学習支援活動を行ってくれていることはありがたく、子どもたちにとっても必要なことだと感じています。
子どもたちと看護師という立場で接する中で、子どもは学校に戻りたいという気持ちはあるものの病院は勉強ではなく治療をするための場所だと感じているからか、看護師に勉強のことを相談をすることはあまり多くありません。しかし「あなたのことをちゃんと見ているよ」というメッセージをケアを通して伝え、信頼関係を緻密に築いていくことで、悩みや学校に対する不安をぽろっとこぼしたりしてくれます。
Q. 学生メンバーが医学部生であることについて、どう思われますか?
学生メンバーは病院の職員として雇用し、サークルの活動に参加してもらっているので、病院職員が受講必須となっている感染対策講習なども受けています。そのため安心して学生メンバーに学習支援活動を任せることができ、病棟のスタッフに安心して受け入れてもらえるということにもつながるかと思います。また、学生メンバーの多くは医師としての道を歩むことになるので、患者さんと実際に関わる機会は良い経験になると考えます。
学習支援そのものが、医学部生による活動だから何か特別であるということはあまりないかと思いますが、医学部生だから与えられる安心感というものはあるように感じています。
Q. 今後やっていきたいことはありますか?
何回か学習支援活動の紹介をしても参加を希望しない子どももいます。タイミングの問題などで必要としていない子どももいるという前提ですが、今後は子どもたちへ案内するタイミングや活動の説明方法について検討していきたいと考えています。わからないことを聞いたり、ちょっと雑談したりする時間でもいいよという伝え方に変えるのも1つの方法かなと思います。
現在は子ども1に対して学生1人が対応するという形での学習支援ですが、「複数人での交流の場」というのも考えていきたいです。もちろん勉強も大事なのですが、勉強だけではなく、生活の中で一緒に学び、子どもたち同士が切磋琢磨できるような場にもなれば良いなと思います。
また、今後は小児がん拠点病院の活動として連携病院にもこの活動を広げていきたいです。
団体の特徴
設立背景 ー 「高校生の学習支援」




東北大学病院には「仙台市立木町通小学校東北大学病院分校」と「仙台市立第二中学校東北大学病院分校」があります。そのため、小中学生に関しては、院内学級の先生たちがしっかりとサポートしてくださっています。
しかし、高校の院内学級はなく、高校生の学習支援をどうするのか悩ましい状況が続いていました。現在は在籍校との遠隔授業もかなり普及していますが、大学病院の高校生学習支援サークルが立ち上がった頃は遠隔授業等はまだ普及しておらず、高校によって対応が様々で留年にならざるを得なかったり受験を諦めてしまう患者さんもいました。
そのようなこともあり、高校生の学習支援をなんとかしなければならないと始まったのがこのサークルです。小児病棟医師たちの提案により医学部2年の学生に協力を依頼したところ、6人の学生が集まったというのが活動開始のきっかけです。
また、高校生の学習支援開始を後押しした背景の1つに、当院が東北地方で唯一の小児がん拠点病院であることもあげられます。
背景と目的
東北大学病院小児医療センターには高校生も長期入院していますが、院内学級がないため自己学習をせざるを得ない状況にあります。また、退院後の高校への復学及び卒業も課題で、行政を含めた院外からのサポートを得ることが困難であるのが現状です。
そこで、東北大学病院小児医療センター 高校生学習支援サークルでは、入院中の高校生への学習補助、及び学習補助の自主運営をおこなっています。
– AYA Room –
サークルの学習支援が始まったばかりの頃は、院内学級の場所を借りて実施していましたが、現在は「AYA Room」で実施しています。
「AYA Room」は小児病棟内にAYA世代の支援やケアをするためのお部屋で、基本的にはAYA世代にあたる15歳以上が対象なので、高校生が自分の高校の遠隔授業を受けたり、サークルの学習支援を受けたりしています。
ただし、高校生など勉強している人がいなければ中学生と小学生が一緒にゲームをしたり、チャイルドスペシャリストさんが病棟の患者さんたちを集めてゲームをして遊んだりすることもあります。最近は、子どもたちがみんなでボードゲームをやったりと年齢関係なくみんなで集まる場になっていることも多いです。
これからについて
「近所のお兄ちゃん・お姉ちゃん」のような存在に
病院の子どもたちにとって学生メンバーは、なんとなく頼ることができて話せる「近所のお兄ちゃん・お姉ちゃん」のような存在になりうると感じています。先生とか普段いる大人でもない、ただ勉強を教える人でもない「ちょっと悩みも聞いてくれるお兄ちゃんお姉ちゃん」みたいな感覚にもなれたら良いと思います。
そんな関係性を築くためにも、子どもたちへの学習支援についての説明方法も少し工夫していければなと考えています。「勉強をする」と言うと「ワークをする」というように子どもたちは捉えられてしまうかもしれないので、ただお話をしたり、宿題をお手伝いするみたいな声の掛け方についても検討していきたいです。
現在は高校生のみを対象として活動していますが、今後はより広い年代の子どもたちを対象として、子どもたちと年齢が近い学生だからできることに着目した活動も行っていけたらと考えています。
対象範囲の拡大
現状小児医療センターに入院している高校生のみを対象としているため、自/他科入院の中学生・高校生に対象範囲を広げたいと考えています。
実際に今年度、他科入院の方を対象に試験的に学習支援を行ったところ評判は良好でした。宮城県内の小児専門病院の子どもたちへのアプローチも視野に入れています。できる範囲での支援を検討していきたいと考えています
活動内容の拡大
外部からの持ち込みで行う支援は感染症のリスクもあり実施が難しいです。またレモネードスタンドなどマンパワーでは実施が難しいものがあり、人員・予算の面で検討が必要だと考えています。
一方、医学部内の部活動、サークルとのコラボイベントは前向きに考えています。具体的には、医学部オーケストラ部と合同で「院内向けコンサート」を行うなどが挙げられます。中学生、高校生のみならず、小学生のお子さんも参加できるような取り組みもしてみたいと考えています。
学生メンバーへのインタビュー
Q.活動で意識していることは?



活動は基本的に患者さんとメンバーの1対1で、同じメンバーが患者さんのもとに伺います。
入院患者さんはずっと同じ環境にいながら勉強をするので、何度も人が変わって集中力が切れることを防いでいます。自分のことを知ってくれているいつもの人が来てくれたという印象を持ってもらうことができます。



患者さんとの活動が始まるまでは、学力や苦手分野など何もわかりません。おしゃべりの中で、得意な分野や苦手な分野、目指している学部などを聞いていきます。
それだけでなく、理解度を確認するためのテストの作成や市販のドリルを用いて、学力の確認も行ったうえで、学習計画を立てています。
このようなプロセスにより、患者さんにとってよりよい支援を届けられるよう努めています。



勉強だけでなく、趣味に関するお話をして、自分で調べてみることで、仲良くなったり、リラックスして会ってもらえるような関係性作りも意識しているところです。



患者さんの学習状況は自分しか知らないため、行っている支援の方針で本当に合っているのか不安になる時もあります。
しかし、親御さんに今日どの教科をやったのか、どの範囲まで勧めたのかなど、進捗共有しています。これにより、閉鎖的に感じやすい空間を開放的に感じられるよう意識しています。



ほとんど対面で実施しているため、患者さんの表情や雰囲気がとてもわかりやすいのと同時に、メンバーの雰囲気も患者さんは感じ取ります。
AYA Roomまでの移動時間や勉強の前後の時間での雰囲気作りは欠かせません。問題を解いている様子もわかりやすく、紙の余白をどのように使っているのか、どこで解く手が止まっているのかなどを見て、解説のときに伝えてることを考えています。
Q.学習支援をする中で学んだことは?



学習支援中に患者さんの容態が急変することや新しい治療を始めて初日に学習支援があることがあります。ナースコールの位置もわからない、何と声かけていいかもわからない、そんな中で自分に何ができるのか、どうするべきだったのかを考える機会はなかなかないと思っています。
看護師の方から「患者さんを1人にしないでください」と言われており、改めて気が引き締まる思いになります。



大学生になると、中高生と関わる機会が少なくなってきています。子ども扱いをしていないか、地雷に触れていないかなど距離感の難しさはとても感じています。程よい距離感を学びながら実践しています。
また、病気を持っているからこそ、他の子よりできないこともあるけど、甘やかすのは違うという考えのもと、コミュニケーションを取るようにしています。
Q.活動で感じる難しさは?



「学習支援」という枠組みの中で、高校生である患者さんが求める内容はさまざまです。復学に向けて学習習慣をつける一環としての支援もあれば、入試に向けた受験勉強、大学入学資格検定に向けた準備など一人ひとり異なります。
高校数学や物理など難易度が高いこともよくあるので、個人に合わせて問題集を作成してみたり、得意・不得意などを丁寧にヒアリングしたりなど工夫しています。
患者さんにとって「知らない年上の大学生」のままでは緊張させてしまうので、少しでもリラックスして過ごせるように、初回は特に趣味や好きなことなど勉強以外の話をすることも多いです。



高校生を対象としていることで、年齢からくる「デリケート」な部分とどう向き合うのかと難しさを感じた場面もあります。自分たちの高校生時代もそうであったように、そもそもどのように勉強を進めていけたらいいのかなど考えることも多くあります。
「勉強をやりたい」のか「やらされているのか」なども人それぞれで、ニーズに合わせた支援が必要とされていると感じています。



病院内で実施しているからこそ、患者さんのその日の体調により左右されることもあります。活動がキャンセルになったり、スケジュールが変更になったりした時には、「あなたのせいではないからね」と伝えることも大切なのかなと思います。



1人のメンバーが固定で同じ患者さんに関わることで、活動回数を重ねていきながらより深くその患者さんのことを知ることができ、変化を捉えることができると考えています。
少しずつ信頼関係を構築していきながら、「自分のことを知ってくれている”いつもの人”」になれたらいいなという思いもあります。



個人情報管理の観点から、複数人で関わるよりも関係者が少ない方が安全ではないかという考えもあります。
ただ、これは裏を返せば、メンバーの中でその子のことを知っているのは自分だけということでもあり、「自分がやっていることがあっているかな」と感じることもあります。そのため、医療スタッフや保護者の方に活動の様子を共有するように意識するようになりました。