五島 脩 先生(大阪教育大学 特別支援教育部門)
聴き手
あいちゃん、ばえりー、ななみ(wacca!メンバー)
五島 脩 先生(大阪教育大学 特別支援教育部門)
聴き手
あいちゃん、ばえりー、ななみ(wacca!メンバー)
「病気があっても、“学ぶ楽しさ”はあきらめない」
――病弱教育×ICTで子どもの可能性を広げる、五島先生の挑戦

Profile
五島 脩 先生(大阪教育大学 特別支援教育部門)
病弱教育を専門とし、ICTを活用した学習環境づくりの研究・実践に取り組んでいます。院内学級教員、国立特別支援教育総合研究所研究員としての勤務経験があります。
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インタビュー
「もともとは、数学の先生になるつもりでした」
Q.まずは、これまでのご経歴を教えてください。
大学は横浜国立大学で、当初は中学校の歴史の先生になろうと考えていました。はっきりと教員志望だったわけではありませんでした。
2年生から数学科を専攻し、学部では小学校・中学校(数学)・高等学校(数学)の教員免許を取得しました。その後、大学院で特別支援学校の一種免許状を取得しました。
学生時代は、平日はハンドボール部で活動し、週末は障がいのある子どもや成人の方と関わるサークルに複数参加していました。知的障がいや視覚障がい、聴覚障がいなど、さまざまな方と関わった経験が、現在の仕事につながっていると感じています。
病弱教育との出会い
Q.専門である「病弱教育」に興味をもったきっかけは何だったのでしょうか?
学部時代、卒業論文で算数教育の面白さをどのように子どもたちに伝えるかを考える中で、病気のある子どもたちは十分な授業時間を確保できないという現実を知りました。
「授業を受ける時間が限られている子どもたちのために、どのような授業づくりができるのだろうか」と考えたことが、病弱教育に関心をもつきっかけになりました。
ICTは「目的」ではなく「手段」
Q.現在は、病弱教育とICT 注1) を組み合わせた研究・実践をされていますね。
現在は、入院治療を行っている児童生徒の教育資源を充実させることを目的に、ICTを活用した教育方法の研究を行っています。
ICTに関する特別な資格を取得しているわけではなく、すべて独学で学んできました。
病院で働き始めた際、「この子どもたちの学びをどのように支えることができるか」を考える中で、ICTを活用すれば学びの可能性が広がるのではないかと感じたのがはじまりです。具体的な取り組みとしては、
- 仰向けのまま治療を受けている子どもが、ベッド上でもクラスの友達と一緒に授業に参加できるよう、学習内容を考えたり看護師さんと協力して学習環境を調整する
- iPadやロイロノート注2) を活用し、ベッドサイドでも学習できる環境を整える
- テレプレゼンスロボット注3)を活用し、学校行事や授業にオンラインで参加できるようにする
などがあります。
ICTは便利な道具ではありますが、あくまで子どもの学びを支えるための手段であると考えています。
忘れられない、子どもたちとの時間
Q.これまでのお仕事の中で、印象に残っている出来事を教えてください。
退院した子どもが、外来受診の際に会いに来てくれることがありました。
関わった時間が短くても覚えていてくれることが、とても嬉しかったです。
一方で、病院という場所柄、突然お別れをしなければならないことも実際にありました。昨日まで一緒に授業をしていた子どもが…ということもあります。
どれだけ涙が出ても、授業の時間になれば、目の前にいる子どもたちのために笑顔で授業を行うように必死でした。感情のコントロールが難しい場面もありますが、それでも大きなやりがいを感じています。
「病気の子ども」ではなく、「子ども」と関わる
Q.教育において大切にしている価値観を教えてください。
病気があるからといって、必要以上に制限しないことを大切にしています。
「病気の子ども」としてではなく、「子ども」として関わることを意識しています。
病院では患者であっても、学校に来たときには一人の子どもです。自分のこれまでの旅行話をして、「退院したらぜひ見に行ってね」と声をかけたりすることもあります。なんでもかんでもタブーをつくらないよう心がけています。
「大人の事情」で、子どもの学びを止めないために
Q.「〇〇だといいな」と願うことは何ですか。
「大人の事情」がなくなるといいなと思っています。
院内ネットワークや予算、授業時間数など、子どもとは直接関係のない部分で、学びが制限されてしまうことがあります。
すべてを叶えることは難しくても、「この子は何がしたいのだろう」と大人が考え続けることが大切だと思います。大人みんなのベクトルが子どもに向く社会になってほしいと願っています。
多職種と学ぶ場「wacca!」への期待
Q.wacca!への想いを教えてください。
教員として病院で働いたことで、教育学部だけでは出会えない多職種の方々と関わるようになりました。
病院の中の子どもを支えるためには、多くの専門職の力が必要です。学生のうちから自分の専門分野と異なる学問を専攻している学生さんやさまざまな職種の方と関わることができるwacca! の環境は、とても貴重だと思います。
領域を超えて人と人とがつながることで、今すぐに課題が解決しなくても、少しずつ前に進んでいってほしいと考えています。
聴き手より
Q.インタビューをおえて感じたことは?
今回のインタビューを通して、私は「学ぶ」ということの重さを強く感じました。
五島先生の病棟での取り組み一つ一つを聞きながら、私が当たり前に受けてきた教育や「学ぶ」ということは、教育を受けられることが当たり前でない子どもたちにとっては貴重で、それを支援する際には妥協というものが存在してはいけないと思いました。
さらに、勝手な印象ではありますが、多様な現場で経験を積まれている五島先生のお話を聞いたことで、新しい領域に踏み出すということが思っているよりも怯えることではないのかもしれないと感じました。西遊子の活動に参加していてよかったと思える体験がまたひとつできました。そのようなことも含めて、新しく何かを知る、「学ぶ」ということは私たちが生きていくうえでとても大きなもので、大切なことなのだと思いました。
病気があっても「学ぶ楽しさ」を守り続けようとする五島先生の姿勢がとても印象的であり、その精神から多くのことを学ぶことができました。
ICTを単なる便利な道具としてではなく、子ども同士や社会とつながるための「架け橋」として活用し、それを自ら独学で習得されている点から、子ども一人ひとりに対する深い愛情や、可能性を広げようとする強い姿勢を感じ取りました。
また、すぐに成果が見えなくても、人と人がつながり続けること自体に価値があるという考え方は非常に温かく、教育とは知識の伝達にとどまらず、「希望を支える営み」であるのだと改めて考えさせられました。
今回のインタビューを通して、知ることや気づくことが多くありました。
例えば、テレプレゼンスロボットを導入することで、固定されたカメラの映像を見るのではなく、子ども自身が見たいところを見ることができ、学習への関わり方を受け身から主体的な参加へと変えられるというお話が印象に残っています。
ただ映像でつなぐだけでなく、子どもがもう一歩学びの中に入り込み、学習意欲をもてるような環境をつくることこそが、ICTを「目的ではなく、手段として活用する」ということなのだと感じました。子どもたちを第一に考え、そのためにさまざまな手段や方法を模索することの大切さを、改めて学ばせていただきました。
また、wacca! を通して、学生のうちからさまざまな職種や学部の方々と交流できることのありがたさを実感しました。これからも多くの人とつながりながら、自分の視野を広げていきたいと思います。






